always over the moon

句集 「夕蛍 」 鈴木 真砂女 より。

昭和四十四年

娘の来る日落ち葉を焚いてものを煮て     p7 

旅に出て死を想ふこと寒からず           p8

冬薔薇にもう泣かなゐ顔あげにけり

生牡蠣の咽喉もとすべる夜寒かな

貫きしことに傷つき炉を塞ぐ           p9

ひと〆の海苔のかろさや日脚伸ぶ

如月や芦に微塵の青さなく

春ひと日卯の花煎りて人に饗す       p10

芝焼くやその日その日をいのちとし

春塵や東京はわが死にどころ

働くに余すいくとせ燕来る           p11

わが路地の帯のごとしや暮の春

夕蛙小さき者に旅の櫛

山笑ふ歳月人を隔てけり           p12

螢籠さびしきままに眠るべし

今年竹皮剥ぐころの汗少し

榮螺の角天地をさして夏に入る   p13

單衣着て常の路地抜け店通ひ

單衣着て老いじと歩む背は曲げじ

ほととぎす足袋ぬぎ捨てし青畳   p14

火蛾打つて疑ふべきか人の愛

風船や余命とあらば愉しまむ

白玉や愛す人にも嘘ついて  p15

瓜揉んで待てど海路に日和なし

秋ややがておのれも一基の墓

朝顔や週を二回の洗濯日     p16        

女将けふ店へ出ぬ日の浴衣着て

雁の声眼鏡はづしてもの読めば

雁仰ぐ身のたよられてばかりかな        p17

東京をふるさととして菊膾

沖つ浪見つつ髪梳くそぞろ寒

残菊や指冷えそめし厨ごと          p18

紙を梳く水音こそは秋の音

雁やひと日梳きたる紙の量

母の日のつるべ落しや紙梳村       p19

燭一つわれとありけり根深汁

一葉忌雨に早目の店を閉ぢ

しぐるるや切られて白き蛸の肌     p20

山眠る机の疵の一つならず

綿虫や経師屋が来て大工来て

冬菜洗ふことに一途や絶えて泣かず   p21

餅切るや中年以後の運変じ



昭和四十五年

鮟鱇鍋路地に年月重ねけり   p25

鮟鱇の煮ゆる間待てり女将たり

包丁の刃こぼれ憂しや寒の内

大寒や蛤吐きし砂少し  p26

吹雪く夜や甦るもの過去ばかり

かぎりある命よわれよ降る雪よ

啼かず飛ばず雪野鴉の二羽三羽   p27

雪の夜の耳より冷え来寝ぬべしや
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by mariko789 | 2009-02-01 11:21 | no-photo